今は本を読むことぐらい

本のある充実した時間 でもそれだけでは物足りない

「書店不屈宣言」

「書店不屈宣言」

田口 久美子著  筑摩書房  2014年

 

 

 皆さんが本を買うのはどこだろうか? 本屋さん? それともAmazonなどのネットショップ? 近くに本屋がないからネットで、という方も多いと思う。私もそうだ。年々街の本屋が減ってきて買う場所がなくなって来たし、品(本)揃えに不満を持つことも多い。

 

 この本は長らく大手本屋チェーンに勤めた(今も働いている)著者が書店の各分野を担当する書店員に対してインタビューし、その売り場ならではの工夫や苦労などを明快に書き表す。平置き本の選定方法とか、雑誌は発売日とその翌日が勝負とか、ライトノベルの台頭とか、児童書は親が子供の頃に読んだ本を買う傾向があるので超ロングセラー本が多いとか、出版社の営業さんとの関係等々。とにかく担当者が全霊を傾けてその売り場を作っているというのがひしひしと伝わってくる。我々消費者は書店員の努力を気にすることなく本屋の書架を眺めるが、そこには巧妙に購買への伏線が張り巡らされているのである。しかしながらこのような努力にもかかわらず出版物全体の売り上げは年々下がる一方で、著者は書籍を通じた日本語文化の保護に必要性を訴え、さらにはAmazonを中心とするネットショップへの購買層流出の危惧と電子書籍化への流れについても警戒をあらわにする。

 

 本にも一期一会があり、書店でたまたま隣の書架を見て良い本に出合うというのはよくある。ピンポイントで検索するネットでは思いがけない本との出会いは少ないので、書店ぶらぶらというのはいいものだ。その一方で著者や書店員の熱い気持ちとは裏腹に出版点数が増えるばかりで、総じて、「つ・ま・ら・な・い作品」が多すぎる。そして今まで本で得ていた情報の一部が質はどうであれネットで簡単に手に入る現状では売り上げが伸びて行かないのも当然であろう。本質的にはもっともっと良質な書籍(この定義・基準は読む人によって違うので難しいが)を出版してもらいたいし、流通の問題で取り寄せに2週間かかりますとか今の時代におかしいじゃないか。これは本屋や書店員には関係ない話だけど。

 

 ところで最後の方に、「最近の人はカスをつかみたくないんだよ。つまらない本を読んで時間をムダにしたくない。だから誰か権威のある人の推薦とか、ベストセラーとか年間ベストテンとかがもてはやされる」という意見が書かれていたが、答えをすぐ求める最近の傾向をうまく言い当てている。書籍には限らず、テレビで誰彼がいいと発言すればあっという間にその商品が品薄になるのも本質的には同じである。自分で考える(判断する)とか試行錯誤するという習慣をつけなければ人間の幅が拡がらないのではなかろうか。自戒を込めて。