今は本を読むことぐらい

本のある充実した時間 でもそれだけでは物足りない

「炎の牛肉教室」

「炎の牛肉教室」

山本 謙治著  講談社現代新書  2017年

 

 

 書架の背表紙を眺めていると新書には魅惑的なタイトルの作品が多い。そしてその期待に反して新書にはハズレも非常に多い。そういう意味で新書を手にする機会は少ないものの、本書は怪しいタイトルの割に楽しく読めるものであった。

 

 農畜産物流通コンサルタントを称する著者が牛肉のイロハを解説する。肉の等級から肉牛の種類、雄雌の肉質、飼育方法、熟成、流通、販売、さらには海外産の牛肉に至るまで一般的にはあまり知られていない事柄についても知ることができる。圧巻なのは著者自身が牝牛を購入し、オーナーとなって子牛を産ませ、それを肥育して屠殺・肉の販売をする過程をも紹介している。職業柄繁殖農家関係にツテがあるとはいえ、なかなか自身でここまでやるコンサルタントもないだろうから驚きである。

 

 著者は昨今の黒毛和牛・霜降り至上主義を嘆き、赤身肉にこそ肉本来の味と香りがあると主張する。肉の好みはヒトそれぞれであろうが、現在の肉の評価基準ではサシの多い肉が高く評価され、高値で取引される。そうなると畜産農家も儲かる方に流れるのは必然であり、黒毛和牛の限られた血統(サシが多い)の生産に偏りがちである。一方、ここ数年赤身の熟成肉がもてはやされてきており、私も齢のせいかそういった肉の方が美味しく感じるようになってきた。消費者としては多様な選択肢を確保してもらいたいところなので、畜産農家の生産意欲の向上、経営の安定化を図るためにも、現在の評価基準の見直しが必要となるのではないだろうか。

 

 販売数量では輸入肉も伸びている。スーパー等ではオーストラリアやアメリカから輸入された牛肉が価格の点から幅を利かせているが、やはり消費者視線からは抗生物質やホルモン(内臓肉ではなく成長促進剤等)の投与が気になる。そのあたりがつまびらかになっている商品であれば安心して購入できるがどうだろうか。著者が指摘しているように、国産牛の場合でも放牧はイメージだけでほとんどは牛舎での飼育となり、ビタミンコントロールなど牛に負荷を掛けるような肥育方法が一般的となっている。効率的に価値の高い商品を生み出すために手を入れすぎているような印象である。それを求める我々消費者にも原因があるわけで、将来的には消費行動の変化によって牛肉の生産を取り巻く環境が変わるかもしれない。安全・安心でうまい肉を安く! 虫が良すぎて難しいか。