今は本を読むことぐらい

本のある充実した時間 でもそれだけでは物足りない

「学校蔵の特別授業‐佐渡から考える島国ニッポンの未来」

「学校蔵の特別授業‐佐渡から考える島国ニッポンの未来」

尾畑留美子著  日経BP社  2015年

 

 

 佐渡の廃校になった小学校を舞台に地元の酒造会社が「学校蔵」として再出発させた取り組みについて書かれた本。

 

 地方の活力の低下については深刻な問題としてとらえられており、人口増加と活性化の必要性が各地で叫ばれているにもかかわらず都市圏への人口集中の傾向が変わることがない。総務省の人口推計(平成29年10月時点)では、人口が増加したのは東京、埼玉、千葉、神奈川、愛知、福岡、沖縄の7都県のみ。沖縄を除いては都市部への人口移動が鮮明になっている。

https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2017np/index.html

 

 「学校蔵」というのは地元佐渡の酒造会社が廃校となった小学校に醸造設備を導入して酒造りをするとともに、酒造りの学びの場として、そして他地域との交流の場として利用するのを目的としたものである。では、地方を元気にするにはどうすれば良いのだろうか?そこで、3人の先生が参加者とともに方法を探っていくというのが表題の「学校蔵の特別授業」となる、らしい。というのは、本書では学校蔵で行われた授業そのものではなく、講師を務めた3人の識者と著者との対談がメインになっているからだ。本来講師と参加者の双方向の議論のやりとりとそこから生まれる方向性が重要であるにもかかわらず、なぜタイトル通り特別授業の内容紹介をしなかったのか理解に苦しむところである。巻頭の写真を見るとテレビカメラなども入っていたようだから、メディア先行の活動で上手く乗せられて本書を出したのかもしれない。そもそもこの特別授業における「自発的な一般参加者」がどれくらいいたのかも気になる。気になるのであれば参加するべし、ということなのだろう。ホームページを見るとその後も毎年「学校蔵の特別授業」は続けられているようなので、惰性的で形ばかりのものでないのであれば実り多い体験なのかも知れない。

 

 以上のように特別授業に関して不明朗に感じる内容ではあるが、終盤に付けたしのように書かれている学校蔵本来の具体的な取り組みを紹介した項は重要である。まだ始まったばかりのようなので、今後具体的な成果が出てくるようであれば世に発信して頂きたいところである。

 

 本書の対談で重要なことがあった。それは地域活性化のためには単に人を移住等で呼び込むのではなく、地域の問題を一緒に解決しようとする「課題共有モデル」の提唱。これの実現には、その地域特有の課題もしくは伸ばしていけそうな長所をあぶりださないといけないが、そもそもそれらの認識自体がされていないという問題が横たわっている。さて、地域活性化を実行できるヒトが育つきっかけとなるだろうか。