今は本を読むことぐらい

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「偽りの帝国 緊急報告 フォルクスワーゲン排ガス不正の闇」

「偽りの帝国 緊急報告 フォルクスワーゲン排ガス不正の闇」

熊谷 徹著  文藝春秋  2016年

 

 

 現在(2019年初頭)において自動車業界は大きな転換点を迎えている。キーポイントは2点。一つはAIの発展による自動運転技術の開発と法令の整備。そしてノーエミッションビークル(電気自動車 EV)販売の加速。特に後者はEUがより一層のCO2削減を目的としており、従来のディーゼル車はもとよりハイブリッド車でもこの数値目標を達成するのは難しいと考えられているからだ。

 

 EVへの傾倒は本書の本題であるVW(本体とグループ会社)のディーゼルエンジンの排ガス不正問題が引き金を引いたことは間違いない。この不正はアメリカで販売されているVWディーゼルエンジン搭載車が、公的機関の排ガス検査をパスしたにもかかわらず、公道での走行中には基準値を大幅に超えるNOxを排出していることが指摘されたことから始まる。原因は排ガス検査の時だけ排ガス浄化装置を働かせ、それ以外の条件ではその機能を停止するようなソフトウエアが搭載されていたことだった。メーカーエンジニアによって巧妙に仕組まれたこの不正事件はメディアにも数多く取り上げられ、イメージダウンの結果、ディーゼルエンジン車が正規輸入されていない日本でも販売台数を大きく落とすこととなった。

 

VWの日本での新車登録台数(日本自動車輸入組合HPより)

2014年 67,438台

2015年 54,766台   この年に排ガス不正発覚

2016年 47,234台

2017年 49,040台  

 

 さて、著者はVW内部の統治体制がこの問題を引き起こした大きな要因であると指摘し、VWの歴史的背景などから分かりやすく論じている。それに加えて「有用な規則違反」についての論考はVWやドイツ産業界だけにとどまらない極めて重要なものと考えられる。軽微な運用上の違反から法律違反へ。どの国のどの企業でも起きうることを示唆している。

 

 本書は副題にもあるように緊急報告として事件発覚から1年経たずに上梓されたもので、当初のまだ数少ない情報を上手くまとめ上げているが、その後の顛末記も読んでみたいと思う。また、2018年になってVWディーゼルエンジン搭載車を日本に導入してきているので、その評判と販売動向を知りたいところである。もちろん排ガスはきちんと処理されていることであろう。