今は本を読むことぐらい

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「買い物難民を救え‐移動スーパーとくし丸の挑戦」

買い物難民を救え‐移動スーパーとくし丸の挑戦」

村上 稔著  緑風出版  2014年

 

 

 「とくし丸」という移動スーパーフランチャイズの創業記。

 以前からこのような取り組みについては知っていたが、順調に拡大しているという新聞記事に驚いて(失礼!)この本を手に取ってみた次第。

 

 買い物難民についてはずいぶん前から議論されていて、多くの地域で今後大きな問題になってくるものと考えられる。私はハイキングや釣りで山間部によく出かけるが、集落があっても店がない。近くにないというのではなく数キロあるいはもっと行かないといわゆる生鮮品を置いてあるような店舗がないところが多い。その集落の人たち(特に高齢者)は買い物をどうしているのだろうか? 車に乗って出かける? 子供が買い物に連れていってくれる? そういったところを通る際にはいつも気になるのである。また、たとえ街中であっても、高齢で体が不自由になってくると近くのスーパーにさえも出かけにくいという問題が現実にある。最近は大手コンビニが移動販売車を導入したり、自治体によっては補助金を出して移動スーパーを走らせたりする動きが報じられている。

 

 総務省が2017年にまとめた「買い物弱者対策に関する実態調査」によると、「買い物弱者」の定義は国としてもきちんと定まっていないようだが、「65歳以上の高齢者で自宅の500m圏内に生鮮食料品販売店がなく且つ自動車を保有しないもの(農林水産省)」という。主に行政側の対応をまとめたものになるが参考までに。

http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/107317_0719.html

 

 こういった事業の意義は極めて大きいと考えられるが、果たして収支はどうだろうか? やりがいだけでは食べて行けないし、特に民間が参入するとなればなおさらだ。私からすれば決して儲かるような事業ではないとみていたからこそ、この手の事業が拡大しているというニュースを見て驚いたのだ。著者は地元徳島で個人事業主としての移動販売スーパーの仕組みを作って実践し、FC化して全国に広げようとしている。地域のスーパーと組んで委託販売という形にすることで仕入れ・売れ残りのリスクをなくし、ルート販売による主に高齢者との顔の見える付き合い、そして場合によっては見守りの役割を担うなど、事業の利点・やりがいを強調した内容となっている。

 

 では個人事業主として参入価値のある事業なのか。

 「とくし丸」のHPでは収支例を載せていて、提携スーパーの募集内容なども勘案すると日販10万、ひと月あたり25日稼働というのが目安のようである。委託販売手数料は17~19%程度。この条件で事業主が得る売上はひと月当たり約45万円。そこからガソリン代などの経費を控除して約36万円が手取だという(年間約430万円)。HPには書かれていないが、現実にはここから国民健康保険料、国民年金保険料を支払い、期末には事業における税金も納めることになる。住民税の納付も必要だ。販売ルートを上手く組めれば上乗せが期待できそうだが、一人で周るのには限度があり、収支で言えば天井が見える個人事業。このシステムにおいて提携スーパーは販売機会の増大につながるし、FC本部も毎月のロイヤルティの確保が出来る一方で、会社の理念に共感して週休1日でやる個人事業者はしんどいのではないだろうか。もちろん体調を崩したりして休めばその分減収になる。

 

 まあ、上記のようなことを私がごそごそと計算していても、とくし丸の移動スーパーは2018年には300台を超え、各都道府県で順調に拡大中のようである。是非移動スーパーをやっている個人事業主の声を聞いてみたいものだ。

 

 この本の出版の後、2016年にとくし丸はオイシックスの傘下に入っている。