今は本を読むことぐらい

本のある充実した時間 でもそれだけでは物足りない

「バナナの世界史‐歴史を変えた果物の数奇な運命」

「バナナの世界史‐歴史を変えた果物の数奇な運命」

ダン・コッペル著  黒川 由美訳  太田出版  2012年

 

 

 バナナ。フィリピン等の南方系の果物で、青いうちに収穫されその後黄色く熟したものを食べるというイメージしかなかった。皆さんはバナナについてどのようなことを知っているだろうか。

 

 本書は主にアメリカのユナイテッド・フルーツ社が中米でバナナのプランテーション化を進め、そこで栽培したバナナをアメリカで販売してきた歴史を描いた力作である。

 

 さて、私は冒頭にも書いたようにバナナについてほとんど何も知らない。故に本書に書かれていることの多くは初耳で、おのれの無知に打ちひしがれることとなった。以下にまとめてみると、

 

・バナナメジャーはバナナのプランテーション化にあたって中南米の各国で積み出し用の港を整備し、鉄道を敷き、労働者のための町を作ったこと。

 

・その権益を守るために中米の政治にも大きな影響を与えた(介入した)こと。

 

・過酷な労働環境のため、労働者の健康被害労働争議が頻発したこと。

 

・大規模に流通するバナナは不稔性(種がない)であるが、塊茎からどんどん増やすことができる。故にいわゆる単一のクローン植物として栽培されることになる。これは取扱いが容易になる一方で、災害や病気などの影響を一斉に受ける危険性を併せ持つこと。

 

・20世紀前半に謳歌したグロスミッチェル種はパナマ病にやられてしまい姿を消したこと。

 

パナマ病に耐性のあったキャベンディッシュ種が現在の流通の主流であるが、この種もまたグロスミッチェル種と同様の危機に瀕していること。

 

・現在のバナナの食味に近い新しい(病気や自然災害に強い)品種を生み出す努力が各国で続けられているが、期待通りには進んでいないこと。

 

 以上。大変興味深く読んでいけるが、本書はかなり冗長である。三分の一くらいは削れるのではないかと感じるほどで、軽い読み物の類ではない。

 

 読後、世界のバナナの先行きが案じられるので(笑)、近所のスーパー・青果店をいくつか廻ってバナナの品種を確認してみたところ結果はすべて「バナナ」だった! 商品名は記載されているが、バナナの品種は表立って書かれておらず自分の目では確認できなかった。

 

 ところで本書を手に取った理由は昨年あたりから国産バナナが話題になっているのが気になっていたから。バナナは熱帯産の植物で日本での露地栽培は難しい。それを可能にしたのが岡山の会社で、凍結融解覚醒法という方法で処理すると熱帯性の植物でも耐寒性を得て日本で栽培が可能になるという。百貨店などで「国産モンゲーバナナ」(一本数百円!)として売られているのがそうで、このバナナはなんと既に世界の栽培シーンから消えたグロスミッチェル種だそうだ。パナマ病はカビの一種によるものであるが、このカビは日本の気候では増殖できないため病気の対策の必要もないらしい。遺伝子操作および遺伝子組み換え作物が一般消費者に受け入れられない以上、当面はそれ以外の手法で品種改良や栽培方法の検討をやっていくしかないのだろう。